【書評】プロ野球「最強捕手」大全 (洋泉社編集部 編)~インタビューと独自の視点で“捕手”の頭脳に迫る!~
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■『プロ野球「最強捕手」大全』 (洋泉社編集部 編)
(2012年4月26日発売)(定価本体1,500円+税)(A5判207頁)
「持ち味である右方向への大きい当たりでホームランで100本目の記念を飾ることができました。日々指導していただいているバッティングコーチのお陰だと思います」
2012年7月4日。QVCマリンフィールド。楽天対ロッテの9回戦だった。楽天が1点先制して迎えた3回裏の頭のこと。ラストはカウント2-1からの第4球となった。楽天先発・美馬学が外角へ投じた143キロ速球を、里崎智也のバットがしっかり捉えてみせた。逆らわない一撃は風にも乗って、そのまま右翼席へ吸い込まれていく同点弾に。その後、試合はロッテが勝ち越しに成功してゲームセット。マリンのお立ち台には成瀬─里崎のバッテリーが呼ばれていた。
壇上で「99号から時間はかかりましたけど、その分期待度も高かったのではないですか?」と訊かれた里崎は「僕の中では早かった方なので。オールスターまでにはいきたいなと思っていたのですけど、QVCマリンで打てて本当に良かったと思います」とし、続けて冒頭のコメントを口にした。
実はこの一撃、里崎のプロ通算100号本塁打となった。このとき、捕手による100本塁打はNPB史上何人目なのだろう?という興味が私の中で生まれていた。
昨年秋に1度読破し、この年末年始もう1度読み返していた『プロ野球「最強捕手」大全』。
昨年購入した直接の動機は、里崎の100号もあって、捕手全般について捕手の記録について、もっと知りたいという欲求が高まっていたからだった。
ここ数年ブログをやっていることもあって、主に中継になるが年間120試合以上は観戦している。そんな私が年々感じることは、野球は本当に奥が深いってこと。中でも、知れば知るほど奥深さを感じさせ、ますます判らないことが多くなるのが「グラウンド上の監督」捕手というポジションだ。
皆さんも御存じのとおり、現在、捕手に求められる役割は多岐に渡る。
キャッチングやスローイング等の技術や投手とのコミュニケーション能力ばかりではない。打者への洞察力、状況に応じた守備位置を野手に指示するなどの状況判断力、そしてなによりも指揮官の野球観を最も理解しなければならないのが捕手の務めである。球界を代表する捕手が出てくれば10年間チームは安泰だと言われるゆえんなのだ。
日本プロ野球史を彩った古今68名のキャッチャーを紹介
そんな捕手の奥深さをA5判207ページにびっちり詰め込んだのが、本書である。
それなりの紙幅を割いて紹介されている捕手は、全68人にも及ぶのだ。名前を列挙してみよう。
現役(2012年開幕時点)では、谷繁元信、阿部慎之助、城島健司、相川亮二、石原慶幸、倉義和、細山田武史、黒羽根利規、嶋基宏、細川亨、大野奨太、鶴岡慎也、炭谷銀仁朗、星孝典、伊藤光、鈴木郁洋、中島聡の17人。
OBでは、野村克也、古田敦也、伊藤勤、達川光男、田淵幸一、森祇晶、中尾孝義、梨田昌孝、大矢明彦、山倉和博、八重樫幸雄、矢野燿大、若菜嘉晴、木戸克彦、中村武志、村田真一、吉原正喜、土井垣武、辻佳紀、辻恭彦、和田博実、木俣達彦、土井淳、根来広光、醍醐猛夫、種茂雅之、中沢伸二、田中尊、村上公康、加藤俊夫、大宮龍男、有田修三、秋元宏作、定詰雅彦、吉永幸一郎、袴田英利、古久保健二、西山秀二、三輪隆、高田誠、藤田浩雅、光山英和、山下和彦、山田勝彦、水沼四郎、野村克則、香川伸行、大久保博元、杉山直樹、瀬戸輝信、マイク・ディアスの51人。
■全68人に及ぶ古今の捕手の紹介をしている本書。主要捕手は複数ページで、他は1ページ、半ぺージ。それぞれ写真と主な成績(盗塁阻止率含む)も掲載され、様々な逸話と共にその捕手像に迫っている。(本書24~25頁より)

捕手にまつわるエピソードが一堂に会する珍しい一冊
クロマティ世代の私にとって、特にOB世代は知らない名前も多かった。今回初めて学んだこともたくさんあった。幾つか印象に残ったエピソードを紹介したい。
まずは、型破りなリードをみせた「ヒゲ辻」の仰天エピソードから。田淵が入団してくるまで阪神の正捕手として活躍した辻佳紀。1965年7/29、8/31の巨人戦で当時のエース村山実に対し230球全てフォーク(驚!)を要求。繊細な性格の村山を大投手に押し上げたのは、辻の規格外の配球があってこそだったという。
おったまげた!と言えば、外国人捕手の活躍例もその1つだ。高いコミュニケーション能力が要求される捕手というポジションにおいて、カタカナの登録名による出場記録があったことは今回初めて知った。
中でも有名なのが、89年~92年にロッテに在籍した「ランボー」ことマイク・ディアス。来日2年目の90年7/28ダイエー戦の8回、それまでファーストに就いていたディアスがおもむろにマスクをかぶりプロテクターやレガースを身につけホーム方向に歩いていったという。
これは金田正一監督の単なる思いつきではない。メジャーでの捕手経験を買った起用で、ディアスはこれを皮切りにNPBで21試合捕手として出場している。調べてみると、36年名古屋軍のハリス、53年毎日のフッド、77年広島のギャレットら何人かいるようだ。97年にもヤクルトでカツノリ...おっと...カツノリはノムさんの息子さんだった σ(^_^;)
自ら引き起こした不祥事がその後の名捕手入りへとつながっていく・・・。へええ!こんなこともあるんだね~と「運命のいたずら」に舌を巻かされるのが、東映や日拓、日本ハムで活躍した加藤俊夫(仙台市宮城野区出身)。
66年にサンケイに入団。プロ4年目の無免許運転で逮捕され、無期限出場停止処分という事実上のクビを言い渡される。1年間のブランク後に東映で復帰。以降、球宴選出4回、77年にはベストナインとゴールデングラブ受賞、出場試合数も通算1507試合を数えるなど活躍した。
加藤と同じような経路を辿ったと言えるのが、現在楽天のバッテリーコーチを務める三輪隆だ。
93年社会人神戸製鋼からオリックス入り。しかし、98年脱税事件で7週間の出場停止処分を受ける。しかし99年以降、オールスターに選ばれたり、シーズン打率3割を記録するなど汚名返上。引退年となった2004年にはオリックスの選手会長として球界再編問題の対応に尽力、そして現在、みちのくに投手王国を築きあげるためコーチ業に邁進をみせている。
通算400勝、唯我独尊な性格で知られる大投手・金田正一。そのカネやんがただ一人信頼を寄せた女房役の話も興味深かった。
「ワシが監督を使っていた」と言ってはばからない金田だから、女房役も使って当たり前。投球動作の途中で球種を切り替えてしまうのは日常茶飯事で、ノーサインで投げるのは当たり前だったという。その金田の球を黙々と受け続けたのが、根来広光だった。
本書によると「豪球ゆえ、指は腫れて太くなり、骨は変形、いわば身体を犠牲にして捕球し続けた」という。それでも根来は「金田さんには感謝しています。金田さんがいなければ、私の存在価値はなかったのですから」と語る。昔は投手がノーサインで投げることは珍しいことではなかったようで、西鉄・和田博実も稲尾のノーサインを受けていたという。
今では捕手といえども打てなければならない。打てる捕手がいるチームは強いというフレーズもよく耳にするようになった。その打てる捕手の“走り”と言えるのが、64年から82年まで中日一筋でプレーした木俣達彦だ。
65年に正捕手を獲得、以来じつに17年間スタメンを守ったという。盗塁阻止率.395など強肩の定評あったが、バットでも活躍。自宅に特製のバッティングマシーンを作り、打撃練習に励み、69年70年は2年連続30本塁打以上、通算285本の記録を残している。
今まであまりスポットが当たらなかった捕手の英雄譚、苦労話、変わったエピソード等が、このように一堂に会して紹介されている本書は、珍しい存在なのではないだろうか。
山倉を「クッションのような存在」とした江川発言の意味など14の黄金バッテリー伝説
本書は、バッテリーについても数多くの紙幅を割いている。「黄金バッテリー伝説」と銘打ったコーナーが本書の所々に挿入されており、読み手の好奇心を誘っていく。
取り上げているのは、
杉浦忠x野村克也、高津臣吾x古田敦也、渡辺久信x伊東勤、大野豊x達川光男、江夏豊x田淵幸一、堀内恒夫x森祇晶、斎藤雅樹x中尾孝義、井本隆x梨田昌孝、安田猛x大矢明彦、江川卓x山倉和博、尾花高夫x八重樫幸雄、藤川球児x矢野燿大、上原浩治x阿部慎之助、工藤公康x城島健司
の14バッテリー。
あまりにも有名な工藤と城島の師弟エピソードを始め様々なエピソードがここにも散らばっている。
サイドスローに転向直後、結果が出ずに苦しんでいた若き日の斎藤雅樹に対し、その後の一流投手の足がかりとなった「インコースをもっと使ったらどうだ」という助言した中尾孝義の話。
江夏が投げる150キロ超の内角低め剛速球をミットが動くことなく捕球するため、両腕の強化に励んだという田淵。そのことも転機となってホームランアーチストへと飛躍したという話や、97年の西武との日本シリーズ第2戦、終盤のピンチで高津にシンカーを何度も何度も要求したという、堅い絆が再確認できる高津x古田の黄金バッテリー。
02年の巨人vs西武の日本シリーズ第1戦、その後の味方投手陣のため、身を持ってカブレラにホームランを打たれてみせた上原x阿部の献身的な逸話、江川卓が山倉和博を「クッションのような存在」と評したその理由とは?等々、興味尽きることのない話が、紡がれていくのだ。
■黄金バッテリー (本書34~35ページより)
本書の読みどころの1つ。前述の14バッテリーがそれぞれ見開きで、写真と象徴的なシーズンの成績と共に、紹介されていく。

江夏の21球を捕手視点で検証した「水沼の21球」
このようにして、本書も半分あたりまで読み進めていくと、これまた面白い試みの企画が待っているのだ。
題して「江夏の21球」ならぬ「水沼四郎の21球」。
言わずもがな、1979年、広島と近鉄のぶつかり合いになった日本シリーズ、3勝3敗で迎えた第7戦、広島1点リード出迎えた9回裏で広島の江夏豊が投じた21球のことである。この21球を受けていた捕手側の視点、水沼四郎の立ち位置から振り返ってみる検証は、今までありそうでなかった、語られていそうで語られていなかったのではないか。今回、8ページにわたって仔細に振り返っている作業をここでおこなっているのだ。
あの4年後、広島の野球教室で一緒になった当時の近鉄監督だった西本幸雄氏に水沼はこう言われたという。「みんな江夏、江夏言うけど、あのときはホンマ、お前にやられてしまったのう」。
■伝説のリード (本書124~125ページより)

水沼の21球の後に読者を待ち構えているのが、古田とイチローの写真の上に「球史に残る名シーンを演出! 打者を翻弄した配球術をプレイバック」という見出しが乗っかる、捕手が魅せた「伝説のリード」という企画。
95年ヤクルトvsオリックスの日本シリーズ。イチローをノムさんの口撃に古田の内角攻めで封じてみせた有名なエピソードから、記憶に新しいところでは11年のソフトバンクvs中日の日本シリーズ、無死満塁で細川亨がボール半個分のリードでひっぱった森福の11球など、4つの名シーンを配球術の妙を中心に据え、振り返っている。
達川光男、谷繁元信、嶋基宏など6捕手のインタビューも所収
その他、本書は、生の声も多数所収された。OBでは今なお達者な達川光男、古田登場前に捕手革命の嚆矢を担った中尾孝義、主にホークス戦の解説者として知られTwitterでもおなじみの若菜嘉晴の3氏、現役では中日の谷繁、楽天の嶋、ロッテの里崎の3選手、合計6人のインタビューが収められている。
特に若菜氏は城島がスーパーキャッチャーに成長するまでの興味深い経緯や王監督と時には衝突したという話などを披露してくださっている(王監督は城島を一塁やDHで起用したかったようだ)。
「お前は“机の上”だけでリードしている。データだけで抑えようとするから、とんでもない配球になるんだよ」。2009年中日との交流戦、1-15の大敗を喫した直後、相手の谷繁からかけられた言葉で大きものを得たたと明かす楽天の嶋のインタビュー、長年球を受け続けたため右手より左手が大きくなったと手をかざしてキャッチャー哲学をしみじみ語る谷繁の冒頭インタビューなどには、ぜひとも目を通しておきたい。
その他、本書にはここでは紹介しきれないコラムや読み物がまだまだある。
大まかに捕手に求められる役割の変遷を時系列で振り返った「日本プロ野球 キャッチャー像の変遷」、「知られざるキーマン『ブルペン捕手』の日常」と題して、西武のブルペン捕手・椎木匠さんにインタビューしているページ、日本とメジャーでの捕手像の違いやメジャーで求められる捕手像を捕手防御率など様々な数字から、マリナーズ時代の城島を例に紹介しているページなどなど、だ。
記録好きを嬉し泣きさせる捕手限定記録集、1軍出場全捕手リスト
巻末は記録集になっている。2011年シーズン終了時のもので、「キャッチャー限定通算成績ベストテン」では出場試合数、盗塁阻止率、パスボール、失策、打率、本塁打、打点、四死球、三振・・・等々、捕手として出場したときの記録が掲載されている。
ここで冒頭に戻って、捕手による本塁打だ。
2011年時点で、1位はノムさんの657本、2位は田淵幸一の329本。田淵は通算474本塁打だが、なぜ329本か?と言えば前述のとおり捕手以外のポジションで145本打っているからなのだ。3位以下は木俣達彦の285本、阿部慎之助と続いて(阿部は今年捕手で20本打っているから3位浮上ということになる)、10位が中村武志の137本。現在105本の里崎が捕手通算本塁打で上位に顔を出すにはいましばらくかかりそうなのだ。
さらに、記録好きに嬉し泣きをさせるほど圧巻なのは「日本プロ野球一軍公式戦出場全捕手リスト」だ。
1396年から2011年まで捕手として1軍出場が1試合でも記録された全選手をリスト化したもの。
成績は残念ながら捕手以外も含む通算で掲載されているが、そういえば、楽天のコーチも務めていた関川浩一や昨年引退した北川博敏などは元々捕手だったのだなぁと再確認することができる。外国人捕手が少なからずいた事実も、ここでしっかりと確認できる。
なお、本書は、2009年9月に本書の発行元・洋泉社から出たムック本『プロ野球「最強捕手」伝説』の内容に新規ページを加え、再構成されたものという。当然、そのムック本を既に所持している方には、あまりお薦めできない。記録は2011年終了時に更新されてはいるが、インタビューも2009年当時のものだからだ。
それでも、前ムック本を手に取ったことのない私のような野球好きには、お薦めできる一冊だと思う。
■出場全捕手リスト(本書194~195ページより)

◎◎◎当ブログで紹介した書籍◎◎◎
・〔書評〕『プロ野球選手ホントの実力』(オークラ出版)~知ってるようで知らない野球の指標、教えます!(2012.11.26)
・〔書評〕岡田友輔=編集・発行。道作、蛭川皓平、森嶋俊行・・・著『セイバーメトリクス・マガジン1』(デルタクリエイティブ)(2012.10.27)
・〔書評〕赤坂英一『2番打者論』(PHP研究所) 「2番」を打とうと野球を始める人は少ない。だが、野球を知れ知るほど「2番」ほどおもしろい役割はない(2012.7.22)
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壇上で「99号から時間はかかりましたけど、その分期待度も高かったのではないですか?」と訊かれた里崎は「僕の中では早かった方なので。オールスターまでにはいきたいなと思っていたのですけど、QVCマリンで打てて本当に良かったと思います」とし、続けて冒頭のコメントを口にした。
実はこの一撃、里崎のプロ通算100号本塁打となった。このとき、捕手による100本塁打はNPB史上何人目なのだろう?という興味が私の中で生まれていた。
昨年秋に1度読破し、この年末年始もう1度読み返していた『プロ野球「最強捕手」大全』。
昨年購入した直接の動機は、里崎の100号もあって、捕手全般について捕手の記録について、もっと知りたいという欲求が高まっていたからだった。
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皆さんも御存じのとおり、現在、捕手に求められる役割は多岐に渡る。
キャッチングやスローイング等の技術や投手とのコミュニケーション能力ばかりではない。打者への洞察力、状況に応じた守備位置を野手に指示するなどの状況判断力、そしてなによりも指揮官の野球観を最も理解しなければならないのが捕手の務めである。球界を代表する捕手が出てくれば10年間チームは安泰だと言われるゆえんなのだ。
日本プロ野球史を彩った古今68名のキャッチャーを紹介
そんな捕手の奥深さをA5判207ページにびっちり詰め込んだのが、本書である。
それなりの紙幅を割いて紹介されている捕手は、全68人にも及ぶのだ。名前を列挙してみよう。
現役(2012年開幕時点)では、谷繁元信、阿部慎之助、城島健司、相川亮二、石原慶幸、倉義和、細山田武史、黒羽根利規、嶋基宏、細川亨、大野奨太、鶴岡慎也、炭谷銀仁朗、星孝典、伊藤光、鈴木郁洋、中島聡の17人。
OBでは、野村克也、古田敦也、伊藤勤、達川光男、田淵幸一、森祇晶、中尾孝義、梨田昌孝、大矢明彦、山倉和博、八重樫幸雄、矢野燿大、若菜嘉晴、木戸克彦、中村武志、村田真一、吉原正喜、土井垣武、辻佳紀、辻恭彦、和田博実、木俣達彦、土井淳、根来広光、醍醐猛夫、種茂雅之、中沢伸二、田中尊、村上公康、加藤俊夫、大宮龍男、有田修三、秋元宏作、定詰雅彦、吉永幸一郎、袴田英利、古久保健二、西山秀二、三輪隆、高田誠、藤田浩雅、光山英和、山下和彦、山田勝彦、水沼四郎、野村克則、香川伸行、大久保博元、杉山直樹、瀬戸輝信、マイク・ディアスの51人。
■全68人に及ぶ古今の捕手の紹介をしている本書。主要捕手は複数ページで、他は1ページ、半ぺージ。それぞれ写真と主な成績(盗塁阻止率含む)も掲載され、様々な逸話と共にその捕手像に迫っている。(本書24~25頁より)

捕手にまつわるエピソードが一堂に会する珍しい一冊
クロマティ世代の私にとって、特にOB世代は知らない名前も多かった。今回初めて学んだこともたくさんあった。幾つか印象に残ったエピソードを紹介したい。
まずは、型破りなリードをみせた「ヒゲ辻」の仰天エピソードから。田淵が入団してくるまで阪神の正捕手として活躍した辻佳紀。1965年7/29、8/31の巨人戦で当時のエース村山実に対し230球全てフォーク(驚!)を要求。繊細な性格の村山を大投手に押し上げたのは、辻の規格外の配球があってこそだったという。
おったまげた!と言えば、外国人捕手の活躍例もその1つだ。高いコミュニケーション能力が要求される捕手というポジションにおいて、カタカナの登録名による出場記録があったことは今回初めて知った。
中でも有名なのが、89年~92年にロッテに在籍した「ランボー」ことマイク・ディアス。来日2年目の90年7/28ダイエー戦の8回、それまでファーストに就いていたディアスがおもむろにマスクをかぶりプロテクターやレガースを身につけホーム方向に歩いていったという。
これは金田正一監督の単なる思いつきではない。メジャーでの捕手経験を買った起用で、ディアスはこれを皮切りにNPBで21試合捕手として出場している。調べてみると、36年名古屋軍のハリス、53年毎日のフッド、77年広島のギャレットら何人かいるようだ。97年にもヤクルトでカツノリ...おっと...カツノリはノムさんの息子さんだった σ(^_^;)
自ら引き起こした不祥事がその後の名捕手入りへとつながっていく・・・。へええ!こんなこともあるんだね~と「運命のいたずら」に舌を巻かされるのが、東映や日拓、日本ハムで活躍した加藤俊夫(仙台市宮城野区出身)。
66年にサンケイに入団。プロ4年目の無免許運転で逮捕され、無期限出場停止処分という事実上のクビを言い渡される。1年間のブランク後に東映で復帰。以降、球宴選出4回、77年にはベストナインとゴールデングラブ受賞、出場試合数も通算1507試合を数えるなど活躍した。
加藤と同じような経路を辿ったと言えるのが、現在楽天のバッテリーコーチを務める三輪隆だ。
93年社会人神戸製鋼からオリックス入り。しかし、98年脱税事件で7週間の出場停止処分を受ける。しかし99年以降、オールスターに選ばれたり、シーズン打率3割を記録するなど汚名返上。引退年となった2004年にはオリックスの選手会長として球界再編問題の対応に尽力、そして現在、みちのくに投手王国を築きあげるためコーチ業に邁進をみせている。
通算400勝、唯我独尊な性格で知られる大投手・金田正一。そのカネやんがただ一人信頼を寄せた女房役の話も興味深かった。
「ワシが監督を使っていた」と言ってはばからない金田だから、女房役も使って当たり前。投球動作の途中で球種を切り替えてしまうのは日常茶飯事で、ノーサインで投げるのは当たり前だったという。その金田の球を黙々と受け続けたのが、根来広光だった。
本書によると「豪球ゆえ、指は腫れて太くなり、骨は変形、いわば身体を犠牲にして捕球し続けた」という。それでも根来は「金田さんには感謝しています。金田さんがいなければ、私の存在価値はなかったのですから」と語る。昔は投手がノーサインで投げることは珍しいことではなかったようで、西鉄・和田博実も稲尾のノーサインを受けていたという。
今では捕手といえども打てなければならない。打てる捕手がいるチームは強いというフレーズもよく耳にするようになった。その打てる捕手の“走り”と言えるのが、64年から82年まで中日一筋でプレーした木俣達彦だ。
65年に正捕手を獲得、以来じつに17年間スタメンを守ったという。盗塁阻止率.395など強肩の定評あったが、バットでも活躍。自宅に特製のバッティングマシーンを作り、打撃練習に励み、69年70年は2年連続30本塁打以上、通算285本の記録を残している。
今まであまりスポットが当たらなかった捕手の英雄譚、苦労話、変わったエピソード等が、このように一堂に会して紹介されている本書は、珍しい存在なのではないだろうか。
山倉を「クッションのような存在」とした江川発言の意味など14の黄金バッテリー伝説
本書は、バッテリーについても数多くの紙幅を割いている。「黄金バッテリー伝説」と銘打ったコーナーが本書の所々に挿入されており、読み手の好奇心を誘っていく。
取り上げているのは、
杉浦忠x野村克也、高津臣吾x古田敦也、渡辺久信x伊東勤、大野豊x達川光男、江夏豊x田淵幸一、堀内恒夫x森祇晶、斎藤雅樹x中尾孝義、井本隆x梨田昌孝、安田猛x大矢明彦、江川卓x山倉和博、尾花高夫x八重樫幸雄、藤川球児x矢野燿大、上原浩治x阿部慎之助、工藤公康x城島健司
の14バッテリー。
あまりにも有名な工藤と城島の師弟エピソードを始め様々なエピソードがここにも散らばっている。
サイドスローに転向直後、結果が出ずに苦しんでいた若き日の斎藤雅樹に対し、その後の一流投手の足がかりとなった「インコースをもっと使ったらどうだ」という助言した中尾孝義の話。
江夏が投げる150キロ超の内角低め剛速球をミットが動くことなく捕球するため、両腕の強化に励んだという田淵。そのことも転機となってホームランアーチストへと飛躍したという話や、97年の西武との日本シリーズ第2戦、終盤のピンチで高津にシンカーを何度も何度も要求したという、堅い絆が再確認できる高津x古田の黄金バッテリー。
02年の巨人vs西武の日本シリーズ第1戦、その後の味方投手陣のため、身を持ってカブレラにホームランを打たれてみせた上原x阿部の献身的な逸話、江川卓が山倉和博を「クッションのような存在」と評したその理由とは?等々、興味尽きることのない話が、紡がれていくのだ。
■黄金バッテリー (本書34~35ページより)
本書の読みどころの1つ。前述の14バッテリーがそれぞれ見開きで、写真と象徴的なシーズンの成績と共に、紹介されていく。

江夏の21球を捕手視点で検証した「水沼の21球」
このようにして、本書も半分あたりまで読み進めていくと、これまた面白い試みの企画が待っているのだ。
題して「江夏の21球」ならぬ「水沼四郎の21球」。
言わずもがな、1979年、広島と近鉄のぶつかり合いになった日本シリーズ、3勝3敗で迎えた第7戦、広島1点リード出迎えた9回裏で広島の江夏豊が投じた21球のことである。この21球を受けていた捕手側の視点、水沼四郎の立ち位置から振り返ってみる検証は、今までありそうでなかった、語られていそうで語られていなかったのではないか。今回、8ページにわたって仔細に振り返っている作業をここでおこなっているのだ。
あの4年後、広島の野球教室で一緒になった当時の近鉄監督だった西本幸雄氏に水沼はこう言われたという。「みんな江夏、江夏言うけど、あのときはホンマ、お前にやられてしまったのう」。
■伝説のリード (本書124~125ページより)

水沼の21球の後に読者を待ち構えているのが、古田とイチローの写真の上に「球史に残る名シーンを演出! 打者を翻弄した配球術をプレイバック」という見出しが乗っかる、捕手が魅せた「伝説のリード」という企画。
95年ヤクルトvsオリックスの日本シリーズ。イチローをノムさんの口撃に古田の内角攻めで封じてみせた有名なエピソードから、記憶に新しいところでは11年のソフトバンクvs中日の日本シリーズ、無死満塁で細川亨がボール半個分のリードでひっぱった森福の11球など、4つの名シーンを配球術の妙を中心に据え、振り返っている。
達川光男、谷繁元信、嶋基宏など6捕手のインタビューも所収
その他、本書は、生の声も多数所収された。OBでは今なお達者な達川光男、古田登場前に捕手革命の嚆矢を担った中尾孝義、主にホークス戦の解説者として知られTwitterでもおなじみの若菜嘉晴の3氏、現役では中日の谷繁、楽天の嶋、ロッテの里崎の3選手、合計6人のインタビューが収められている。
特に若菜氏は城島がスーパーキャッチャーに成長するまでの興味深い経緯や王監督と時には衝突したという話などを披露してくださっている(王監督は城島を一塁やDHで起用したかったようだ)。
「お前は“机の上”だけでリードしている。データだけで抑えようとするから、とんでもない配球になるんだよ」。2009年中日との交流戦、1-15の大敗を喫した直後、相手の谷繁からかけられた言葉で大きものを得たたと明かす楽天の嶋のインタビュー、長年球を受け続けたため右手より左手が大きくなったと手をかざしてキャッチャー哲学をしみじみ語る谷繁の冒頭インタビューなどには、ぜひとも目を通しておきたい。
その他、本書にはここでは紹介しきれないコラムや読み物がまだまだある。
大まかに捕手に求められる役割の変遷を時系列で振り返った「日本プロ野球 キャッチャー像の変遷」、「知られざるキーマン『ブルペン捕手』の日常」と題して、西武のブルペン捕手・椎木匠さんにインタビューしているページ、日本とメジャーでの捕手像の違いやメジャーで求められる捕手像を捕手防御率など様々な数字から、マリナーズ時代の城島を例に紹介しているページなどなど、だ。
記録好きを嬉し泣きさせる捕手限定記録集、1軍出場全捕手リスト
巻末は記録集になっている。2011年シーズン終了時のもので、「キャッチャー限定通算成績ベストテン」では出場試合数、盗塁阻止率、パスボール、失策、打率、本塁打、打点、四死球、三振・・・等々、捕手として出場したときの記録が掲載されている。
ここで冒頭に戻って、捕手による本塁打だ。
2011年時点で、1位はノムさんの657本、2位は田淵幸一の329本。田淵は通算474本塁打だが、なぜ329本か?と言えば前述のとおり捕手以外のポジションで145本打っているからなのだ。3位以下は木俣達彦の285本、阿部慎之助と続いて(阿部は今年捕手で20本打っているから3位浮上ということになる)、10位が中村武志の137本。現在105本の里崎が捕手通算本塁打で上位に顔を出すにはいましばらくかかりそうなのだ。
さらに、記録好きに嬉し泣きをさせるほど圧巻なのは「日本プロ野球一軍公式戦出場全捕手リスト」だ。
1396年から2011年まで捕手として1軍出場が1試合でも記録された全選手をリスト化したもの。
成績は残念ながら捕手以外も含む通算で掲載されているが、そういえば、楽天のコーチも務めていた関川浩一や昨年引退した北川博敏などは元々捕手だったのだなぁと再確認することができる。外国人捕手が少なからずいた事実も、ここでしっかりと確認できる。
なお、本書は、2009年9月に本書の発行元・洋泉社から出たムック本『プロ野球「最強捕手」伝説』の内容に新規ページを加え、再構成されたものという。当然、そのムック本を既に所持している方には、あまりお薦めできない。記録は2011年終了時に更新されてはいるが、インタビューも2009年当時のものだからだ。
それでも、前ムック本を手に取ったことのない私のような野球好きには、お薦めできる一冊だと思う。
■出場全捕手リスト(本書194~195ページより)

◎◎◎当ブログで紹介した書籍◎◎◎
・〔書評〕『プロ野球選手ホントの実力』(オークラ出版)~知ってるようで知らない野球の指標、教えます!(2012.11.26)
・〔書評〕岡田友輔=編集・発行。道作、蛭川皓平、森嶋俊行・・・著『セイバーメトリクス・マガジン1』(デルタクリエイティブ)(2012.10.27)
・〔書評〕赤坂英一『2番打者論』(PHP研究所) 「2番」を打とうと野球を始める人は少ない。だが、野球を知れ知るほど「2番」ほどおもしろい役割はない(2012.7.22)
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