【書評】 岩隈久志 著『感情をコントロールする技術~未来を切り拓く50の視点』(ワニブックス)
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■岩隈久志『感情をコントロールする技術~未来を切り拓く50の視点』
(ワニブックス) 202頁。価格:本体1,300円+税
岩隈の書籍といえば『絆─冬は必ず春となる』(2009年4/1発売)、『投球革命』(2010年3/18発売)の2冊が知られているが、メジャーリーガー・岩隈久志としては本書が初の著書になる。4月20日に発売されたばかりの新刊だ。
少し前まで、世間一般の岩隈に対する印象といえば、良くも悪くも「ガラスのエース」といったところではなかったか? 好投手なのは間違いないところだけど、どこかが頼りない。
肩痛に見舞われた2006年はほとんど仕事ができず、2007年には相次ぐ怪我で思うような投球ができなかった。痛めた右肘にメスを入れ復活を期した2008年は沢村賞を受賞したものの、度重なる怪我の前歴もあって「ガラスのエース」というイメージは拭えなかった。岩隈を戸惑わせたノムさんのボヤきも、そんなネガティヴ・イメージを植え付けるのに、一役買ったはずだ。
「ガラスのエース」を象徴する出来事と言えば、個人的には2010年5/22巨人戦が思い出される。3-3の同点、7回途中93球で降板したのだ。
翌日TBS「サンデーモーニング」で御意見番・張本勲氏が「喝」を入れる。このことが発端となり、コメンテーター江川紹子さんが降板に追い込まれていく。ちょうど同番組を見ていたダルビッシュに対し、一介の野球好きが「張さんの喝は納得いかないなァ」と返答を返したところ、「僕も間違いないと思います」と表明。張本氏の「喝」に違和感を示したことからも、話題を呼ぶ一幕になった。
詳しくは、2010年6/18付きっこのブログ「続・言論を弾圧したTBS報道局」エントリーを参照。
一介の野球好きとは私のことだが(苦笑)、当時の私の立ち位置は、怪我続きで苦しい時期が長く、ようやく復活できただけに、岩隈に無理をさせてくれるな、というものだった。ノムさんの口撃に対してもキツいこと言うよなあと思っていた。しかし、今から思えば、そんな私も「ガラスのエース」と揶揄して批難する連中と同様、岩隈を「ガラスのエース」として扱っていたのかもしれない。
メジャー挑戦する前年、NPB最終年2011年には右肩痛を発症したこともあって、果たしてメジャーで活躍できるだろうか?と、私の胸中は、心配がむくむくと大きくなっていた。オープン戦でなかなか結果が出ず、日本開幕戦のため凱旋した巨人との練習試合では滅多打ち。シーズン始まると一向に出番がまわってこないロングマン(敗戦処理)。ちょうど1年前の今頃は登板するたびにホームランを打たれ、ファンとしても光明を見出すのが、正直むずかしかった。
やっぱり、ダメなのか・・・
しかしだった。そんなファンの胸中を尻目に、岩隈は日本から海を渡って、一歩一歩確実にたくましくなっていったのである。
そのことは昨年後半戦からの好活躍でファンもようやく気付くことになったのだが、今から思えば渡米する前から、我々ファンが考えている以上に、タフなメンタリティを備えた投手だったのではないだろうか。
でなければ、球界再編の激動を乗り越え新興球団のエースとして成功を収めることができようはずもない。二段モーションの禁止や投手生命をおびやかす大怪我に直面しながらも、その都度1つずつ壁を乗り越えていくことも、できなかったはずだ。本書の帯の言葉を借りれば、あの当時から「どんな状況にも適応する、強い自分のつくり方」を心得ていた、ということになる。
もはや金輪際、昔の彼も、今の彼も「ガラスのエース」と呼ぶべきではない。このことを改めてしっかりと確認することができるのが、本書と言えるのだ。
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本書はメジャー1年目で体験したこと、直面したことに対して、岩隈が何を悩み、何を考え、どのように対応して乗り越えてきたか?を「未来を切り開く50の視点」としてまとめた1冊になる。そのため、楽天時代に上梓した2冊の書籍と内容は、全くと言ってよいほど重複がない。
メジャーに行ってからの岩隈の生の声と言えば、『週刊ベースボール』誌で連載されていたコラムがあったが紙幅は限られていた。そのため、1年目を終えてまた新たな1年が始まるタイミングで、まとまったかたちで生の声に接することができるのは、1年目の挑戦を追い続けてきたファンとしては、とびきりの朗報なのだ。
岩隈の処世術を一言で表すなら「郷に入れば郷に従え」である。
あらがうことができない大河が目前に横たわっていたとしたら、その流れに逆らって川をさかのぼるのではなく、まずはその流れに身を任せてみよう、という所を起点にし、解決の糸口を探っていく。
このことはできるようでなかなか難しい。なぜなら、僕ら人間は過去に見聞してきたことと今置かれた立場や、隣の芝生と我が家の庭を常に比較してしまう習性があるからだ。また、これから経験して得られることよりも、どうしても過去の成功体験に引きずられてしまう。特に島国・ニッポンはこの修正は強いのかもしれない。
だが、岩隈は環境が変われば「やりにくくなる」のは当然と言うのだ。近鉄入団時や楽天に移った時も、新天地での挑戦は常に期待半分不安半分だったとし、「やりやすいと感じることができるか、できないのかはその人の気持ち次第なのです」と綴る。やりにくいのは当たり前なのだから、これがここの流儀なんだと腹を括り、まずは慣れようとした。
「慣れるしかない」と開き直れば、やるべきことがおのずと見えてくるというのだ。そして、その中で結果を残し、周囲の信頼感を勝ち取って、よりスムーズな環境・方法を探っていく。岩隈はそのようにしてメジャー1年目を過ごしてきた。
代表例は、やっぱり、敗戦処理でスタートしたシーズン前半戦だろう。
開幕前、監督室で「しばらくロングマンでいくぞ」とウェッジ監督に告げられた岩隈は、当初、戸惑いと不安を覚えたそうだ。でも、それも長くは続かなかった。まずは身を流れに任せ、その中から得るべきものを吸収していく。不便を不便と思い続けるより、不便を「新発見」と捉えれば、同じ風景でも異なった色彩を帯びてくるのだ。
実際、救援起用されていた前半戦は、試合展開を読みながらブルペンで肩の準備をすると同時に、対戦打者のスイングや味方投手の投球を観戦しながら、相手の癖や傾向を徹底的に研究したという。
その成果もあって開幕2カ月経った頃にはアリーグ各打者の特徴をほぼ把握することに成功。6月以降慣れない中継ぎでも結果を出したのだった(月間防御率、4月5月は6.00だったのが6月は3.52に改善された)。さらにはその好結果が7月以降の先発起用への扉を開けるのに、大きな役割を果たしたと言うのだ。本書42ページではこのように綴っている。
中継ぎという現場に足を踏み入れた当初は、ストライクゾーンもわからず、ホームランも打たれ、散々な思いを味わいました。
思うような結果が出ず、落ち込むことはありませんでしたが「今までこんなに悩んだことはない」というくらい毎日、悩みに悩みました。
でもそのお陰で僕はシーズンの後半から先発として結果を残せるようになったのです。中継ぎの難しさを味わい、いくつもの失敗を経験したからこそ、僕は「メジャー版・岩隈久志」として生まれ変われたのだと思っています。
まずはその場の流儀に従ってみる。このことは中4日の調整方法にも表れている。日本にいた時は中6日の調整でランニングやダッシュを多く取り入れていた岩隈は、アメリカの投手陣が全く走らないことに唖然としたという。実際は影で走り込んでいるのでは?とも思ったそうだが、そういうそぶりもない。凡人ならここで戸惑ってしまい、従来の方法に固執するのかもしれない。ところが、岩隈はこう考えたと明かしている。
同じ人間で、同じ野球人です。何より、「いったい彼らは、ピッチャーとしてのスタミナ(持久力)をどうやってつけているのか」という純粋な好奇心が湧いてきました。ここでも、僕は「固定観念を捨てる」決断をしました。(本書105頁より)
岩隈は投球時、最も気をつけて確認している点は、マウンドで右足1本で立ったときにバランスよく立つことができているか?という点だという。このバランスの良さは、何かを成功する上で本当に必要な要素なのだなと改めて思い知らされた。
もちろん、神経を研ぎ澄まさなければならない場面もあるだろうが、そればかりだと激変する環境に心身が過剰反応し、過度な負荷がかかってしまう。それ相応の好奇心とポジティヴシンキング、それに鈍感力も兼ね備えていないと、とても難しいのだと。
それにしても、どうして岩隈に惹かれてしまうだろう?
もちろん、応援する楽天のエース投手であったことは大きいが、その他に決して一流投手ではないという点も大きい。このことは本人も何度か著書で書いており、本書にも出てくる。ダルビッシュや西武の涌井、楽天・田中と自分を比べた時、彼らは一流投手で自分はそうではないとする。
誤解を恐れずに言えば、一流が精進を重ねて超一流になった例がイチローやダルビッシュだとすると、二流以下の投手が努力を重ねて一流投手の頂きに達した代表例が岩隈と言えるのだ。
あまりにも自分とかけ離れた超一流の言葉はへええ!と感嘆の声を上げることはできても現実味がなく、フィードバックしづらい。その点、幾度の困難と挫折を味わい、試行錯誤してきた岩隈の言葉は、我々一般人に通じる人間臭さがあり、私はそこに共感を覚えてしまうのかもしれない。
その他、本書は、報道等を通じてなかなか接することのできなかったメジャー1年目ならではの初見エピソードも多く含まれている。
例えば、日本にいたころから球やグラウンドの違いといった環境の変化をあまり苦にしなかったという岩隈も、御多分に漏れず、メジャーのマウンドの硬さだけには、辟易してしまったそうだ。そこで岩隈が取った方法とは?
岩隈が同僚のマリナーズ選手や敵軍で一目置く投手・打者について語っているくだり、3人いたマリナーズの捕手陣、日米バッテリー論の差異など、興味は尽きない。(あまり書くとネタバレになってしまうので、ここで止めときます)
印象に残った中で1つ挙げるとすると、日本にいたときとメジャーにきてからの投球術の違いを語った箇所になる。その部分を一部引用して、この本の紹介を終わりにしたい。
これまでのイメージで言えば、きっと僕は“フォークボールピッチャー”ということになるのだと思います。もちろんフォークボールは今でも僕にとって大切な球種であることに変わりはありません。でも今はさらにプラスアルファの存在としてツーシームもあれば、カーブもあります。(本書126頁より)
目の前に流れる大河に身を任せて、今日も岩隈はその中で適応すべく、微細なモデルチェンジを図っている。
目下、好投が続いているメジャー2年目の岩隈。今後もどのような新しいマウンド姿を、ピッチングスタイルを見せてくれるのか?引き続き、当ブログは追いかけていきたいと思っている。
Amazon、楽天イーグルスオフィシャルショップなど楽天市場でのお買いものはこちらからどうぞ。ブログ継続安定運営のモチベー ションになります

■目次
まえがき 感情に左右されない自分をつくる
第1章 心を安定させ、何事にも動じない
20・・・「自信」こそが人を成長させ、成長することで、はじめて「挑戦」できる
23・・・「自分ではコントロールできないこと」を考え込んでもしょうがない
28・・・自分の「経験」こそが、唯一の決断材料になる
33・・・不安は放っておくから大きくなる
36・・・最悪から立ち直るためには、「ひとつずつ」を意識する
39・・・「明日から逃げることはできないのだから、未来の不安にジタバタしない
43・・・背番号を追いかけてはいけない。自分が背番号の「格」をつくる
46・・・「準備の人」になれば、心がぶれることはない
51・・・ポーカーフェイスでいることが、集中と安心をもたらす
54・・・「自信」とは、自分と向き合うこと。「過信」とは、相手ありきで考えること
56・・・原因を考えれば、おのずと自分と向き合える
59・・・「実力以上のものを出す必要はない」と思えば緊張はなくなる
64・・・調子の「いい、悪い」に関係なく、常に究極の理想を目指す
第2章 固定観念を捨て、変化を受け入れる
70・・・環境が変われば「やりにくくなる」のは当然
73・・・不便を、不便と思わなければ、ひとつ新たな発見ができる
76・・・とまどいを好奇心に変え、相手ではなく「自分」を変える
79・・・武器となる道具をあらため、最善の準備をする
82・・・役割が変われば、臆病になるのはしょうがない
86・・・自分に必要な体は、いつもの日常だけが知っている
90・・・次のステップに進むための、“たまたま”と思う心と大胆さ
93・・・“自主性”を重んじる環境に、やりがいを見出す
96・・・「慣れるしかない」と開き直れば、やるべきことが見えてくる
100・・・“野球小僧”の感覚を思い出して、物事に挑んでみる
104・・・頭であれこれ考えるより、自分の体を“察知する力”を磨く
第3章 信頼と自信をつかみとるための心がまえ
108・・・迷いがなくなったとき、人は一気に成長する
112・・・本当の信頼は、結果でしか勝ち取れない
115・・・手本になる教材は、誰の近くにも存在する
118・・・自分が信頼することで、平常心が保たれる
121・・・目の前のことに集中していても、いい結果が出るとは限らない
124・・・「心の余裕」が新しい武器を生む
127・・・悪いときは悪いなりに、そのときの“いいもの”を見つける
130・・・最初は誰とでも、信頼関係はゼロ
第4章 観察し、考え、感じることで、不安は消える
136・・・とにかく観察して、正解を見つける
139・・・闘いの場を客観的に見ることで、自分の生きる道が浮かびあがる
143・・・短所は「悪いところ」ではない。「少しだけ足りないところ」
146・・・自分にしかわからない、自分の「感覚」を大事にする
150・・・「マイナス思考」は裏返せばいい
153・・・「先入観」は「なんとなくのイメージ」でとどめておく
156・・・スケジュールは大雑把に。「目安」であって「目標」ではない
160・・・「相性のいい、悪い」ではなく、たかが「確率」の問題
162・・・客観的な情報と、「感じる」情報を合わせる
第5章 使命感を持つことが、人を成長させる
166・・・「理に適っている」選手こそ超一流
169・・・ホンモノに触れることで、一歩先を創造することができる
173・・・ときに感動は、敵味方を魅了する
178・・・「誰かのために」という使命感を大切にする
181・・・無垢な頑張りが、勇気をくれる
185・・・大きな成功を求めない。小さな責任を果たすことからはじめる
188・・・「紳士でいること」が人生の価値をつくる
191・・・あえて「二兎を追うこと」で、自分の適性を見極めればいい
195・・・未知なる刺激がモチベーションをくすぐる
あとがき 失敗は人生の“先生”のようなもの
◎◎◎最近読んだ本の読書感想文◎◎◎
・【書評】 広尾晃 著『プロ野球なんでもランキング──「記録」と「数字」で野球を読み解く』(イーストプレス知的発見!BOOKS)
・【書評】『スポーツアルバムNo.42 釜田佳直』(ベースボール・マガジン社)
・【書評】工藤公康 著『野球のプレーに、「偶然」はない ~テレビ中継・球場での観戦を楽しむ29の視点~』(KANZEN)
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■岩隈久志『感情をコントロールする技術~未来を切り拓く50の視点』
(ワニブックス) 202頁。価格:本体1,300円+税
岩隈の書籍といえば『絆─冬は必ず春となる』(2009年4/1発売)、『投球革命』(2010年3/18発売)の2冊が知られているが、メジャーリーガー・岩隈久志としては本書が初の著書になる。4月20日に発売されたばかりの新刊だ。
少し前まで、世間一般の岩隈に対する印象といえば、良くも悪くも「ガラスのエース」といったところではなかったか? 好投手なのは間違いないところだけど、どこかが頼りない。
肩痛に見舞われた2006年はほとんど仕事ができず、2007年には相次ぐ怪我で思うような投球ができなかった。痛めた右肘にメスを入れ復活を期した2008年は沢村賞を受賞したものの、度重なる怪我の前歴もあって「ガラスのエース」というイメージは拭えなかった。岩隈を戸惑わせたノムさんのボヤきも、そんなネガティヴ・イメージを植え付けるのに、一役買ったはずだ。
「ガラスのエース」を象徴する出来事と言えば、個人的には2010年5/22巨人戦が思い出される。3-3の同点、7回途中93球で降板したのだ。
翌日TBS「サンデーモーニング」で御意見番・張本勲氏が「喝」を入れる。このことが発端となり、コメンテーター江川紹子さんが降板に追い込まれていく。ちょうど同番組を見ていたダルビッシュに対し、一介の野球好きが「張さんの喝は納得いかないなァ」と返答を返したところ、「僕も間違いないと思います」と表明。張本氏の「喝」に違和感を示したことからも、話題を呼ぶ一幕になった。
詳しくは、2010年6/18付きっこのブログ「続・言論を弾圧したTBS報道局」エントリーを参照。
岩隈ファンの江川さんですね。張さんの喝は納得いかないなァ。岩隈投手も納得して「前回の張りも残っていた。ちょっと苦しかったし、交代のタイミングは間違いないです」とコメント出しているし。RT @faridyu :朝から張本さんが女性コメンテーターと言い合ってた(笑)
— 柴川友次さん (@shibakawa) 2010年5月23日
僕も間違いないと思います。 RT @shibakawa: 岩隈ファンの江川さんですね。張さんの喝は納得いかないなァ。岩隈投手も納得して「前回の張りも残っていた。ちょっと苦しかったし、交代のタイミングは間違いないです」とコメント出しているし。RT @faridyu :朝から張本さん
— ダルビッシュ有(Yu Darvish)さん (@faridyu) 2010年5月23日
一介の野球好きとは私のことだが(苦笑)、当時の私の立ち位置は、怪我続きで苦しい時期が長く、ようやく復活できただけに、岩隈に無理をさせてくれるな、というものだった。ノムさんの口撃に対してもキツいこと言うよなあと思っていた。しかし、今から思えば、そんな私も「ガラスのエース」と揶揄して批難する連中と同様、岩隈を「ガラスのエース」として扱っていたのかもしれない。
メジャー挑戦する前年、NPB最終年2011年には右肩痛を発症したこともあって、果たしてメジャーで活躍できるだろうか?と、私の胸中は、心配がむくむくと大きくなっていた。オープン戦でなかなか結果が出ず、日本開幕戦のため凱旋した巨人との練習試合では滅多打ち。シーズン始まると一向に出番がまわってこないロングマン(敗戦処理)。ちょうど1年前の今頃は登板するたびにホームランを打たれ、ファンとしても光明を見出すのが、正直むずかしかった。
やっぱり、ダメなのか・・・
しかしだった。そんなファンの胸中を尻目に、岩隈は日本から海を渡って、一歩一歩確実にたくましくなっていったのである。
そのことは昨年後半戦からの好活躍でファンもようやく気付くことになったのだが、今から思えば渡米する前から、我々ファンが考えている以上に、タフなメンタリティを備えた投手だったのではないだろうか。
でなければ、球界再編の激動を乗り越え新興球団のエースとして成功を収めることができようはずもない。二段モーションの禁止や投手生命をおびやかす大怪我に直面しながらも、その都度1つずつ壁を乗り越えていくことも、できなかったはずだ。本書の帯の言葉を借りれば、あの当時から「どんな状況にも適応する、強い自分のつくり方」を心得ていた、ということになる。
もはや金輪際、昔の彼も、今の彼も「ガラスのエース」と呼ぶべきではない。このことを改めてしっかりと確認することができるのが、本書と言えるのだ。
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本書はメジャー1年目で体験したこと、直面したことに対して、岩隈が何を悩み、何を考え、どのように対応して乗り越えてきたか?を「未来を切り開く50の視点」としてまとめた1冊になる。そのため、楽天時代に上梓した2冊の書籍と内容は、全くと言ってよいほど重複がない。
メジャーに行ってからの岩隈の生の声と言えば、『週刊ベースボール』誌で連載されていたコラムがあったが紙幅は限られていた。そのため、1年目を終えてまた新たな1年が始まるタイミングで、まとまったかたちで生の声に接することができるのは、1年目の挑戦を追い続けてきたファンとしては、とびきりの朗報なのだ。
岩隈の処世術を一言で表すなら「郷に入れば郷に従え」である。
あらがうことができない大河が目前に横たわっていたとしたら、その流れに逆らって川をさかのぼるのではなく、まずはその流れに身を任せてみよう、という所を起点にし、解決の糸口を探っていく。
このことはできるようでなかなか難しい。なぜなら、僕ら人間は過去に見聞してきたことと今置かれた立場や、隣の芝生と我が家の庭を常に比較してしまう習性があるからだ。また、これから経験して得られることよりも、どうしても過去の成功体験に引きずられてしまう。特に島国・ニッポンはこの修正は強いのかもしれない。
だが、岩隈は環境が変われば「やりにくくなる」のは当然と言うのだ。近鉄入団時や楽天に移った時も、新天地での挑戦は常に期待半分不安半分だったとし、「やりやすいと感じることができるか、できないのかはその人の気持ち次第なのです」と綴る。やりにくいのは当たり前なのだから、これがここの流儀なんだと腹を括り、まずは慣れようとした。
「慣れるしかない」と開き直れば、やるべきことがおのずと見えてくるというのだ。そして、その中で結果を残し、周囲の信頼感を勝ち取って、よりスムーズな環境・方法を探っていく。岩隈はそのようにしてメジャー1年目を過ごしてきた。
代表例は、やっぱり、敗戦処理でスタートしたシーズン前半戦だろう。
開幕前、監督室で「しばらくロングマンでいくぞ」とウェッジ監督に告げられた岩隈は、当初、戸惑いと不安を覚えたそうだ。でも、それも長くは続かなかった。まずは身を流れに任せ、その中から得るべきものを吸収していく。不便を不便と思い続けるより、不便を「新発見」と捉えれば、同じ風景でも異なった色彩を帯びてくるのだ。
実際、救援起用されていた前半戦は、試合展開を読みながらブルペンで肩の準備をすると同時に、対戦打者のスイングや味方投手の投球を観戦しながら、相手の癖や傾向を徹底的に研究したという。
その成果もあって開幕2カ月経った頃にはアリーグ各打者の特徴をほぼ把握することに成功。6月以降慣れない中継ぎでも結果を出したのだった(月間防御率、4月5月は6.00だったのが6月は3.52に改善された)。さらにはその好結果が7月以降の先発起用への扉を開けるのに、大きな役割を果たしたと言うのだ。本書42ページではこのように綴っている。
中継ぎという現場に足を踏み入れた当初は、ストライクゾーンもわからず、ホームランも打たれ、散々な思いを味わいました。
思うような結果が出ず、落ち込むことはありませんでしたが「今までこんなに悩んだことはない」というくらい毎日、悩みに悩みました。
でもそのお陰で僕はシーズンの後半から先発として結果を残せるようになったのです。中継ぎの難しさを味わい、いくつもの失敗を経験したからこそ、僕は「メジャー版・岩隈久志」として生まれ変われたのだと思っています。
まずはその場の流儀に従ってみる。このことは中4日の調整方法にも表れている。日本にいた時は中6日の調整でランニングやダッシュを多く取り入れていた岩隈は、アメリカの投手陣が全く走らないことに唖然としたという。実際は影で走り込んでいるのでは?とも思ったそうだが、そういうそぶりもない。凡人ならここで戸惑ってしまい、従来の方法に固執するのかもしれない。ところが、岩隈はこう考えたと明かしている。
同じ人間で、同じ野球人です。何より、「いったい彼らは、ピッチャーとしてのスタミナ(持久力)をどうやってつけているのか」という純粋な好奇心が湧いてきました。ここでも、僕は「固定観念を捨てる」決断をしました。(本書105頁より)
岩隈は投球時、最も気をつけて確認している点は、マウンドで右足1本で立ったときにバランスよく立つことができているか?という点だという。このバランスの良さは、何かを成功する上で本当に必要な要素なのだなと改めて思い知らされた。
もちろん、神経を研ぎ澄まさなければならない場面もあるだろうが、そればかりだと激変する環境に心身が過剰反応し、過度な負荷がかかってしまう。それ相応の好奇心とポジティヴシンキング、それに鈍感力も兼ね備えていないと、とても難しいのだと。
それにしても、どうして岩隈に惹かれてしまうだろう?
もちろん、応援する楽天のエース投手であったことは大きいが、その他に決して一流投手ではないという点も大きい。このことは本人も何度か著書で書いており、本書にも出てくる。ダルビッシュや西武の涌井、楽天・田中と自分を比べた時、彼らは一流投手で自分はそうではないとする。
誤解を恐れずに言えば、一流が精進を重ねて超一流になった例がイチローやダルビッシュだとすると、二流以下の投手が努力を重ねて一流投手の頂きに達した代表例が岩隈と言えるのだ。
あまりにも自分とかけ離れた超一流の言葉はへええ!と感嘆の声を上げることはできても現実味がなく、フィードバックしづらい。その点、幾度の困難と挫折を味わい、試行錯誤してきた岩隈の言葉は、我々一般人に通じる人間臭さがあり、私はそこに共感を覚えてしまうのかもしれない。
その他、本書は、報道等を通じてなかなか接することのできなかったメジャー1年目ならではの初見エピソードも多く含まれている。
例えば、日本にいたころから球やグラウンドの違いといった環境の変化をあまり苦にしなかったという岩隈も、御多分に漏れず、メジャーのマウンドの硬さだけには、辟易してしまったそうだ。そこで岩隈が取った方法とは?
岩隈が同僚のマリナーズ選手や敵軍で一目置く投手・打者について語っているくだり、3人いたマリナーズの捕手陣、日米バッテリー論の差異など、興味は尽きない。(あまり書くとネタバレになってしまうので、ここで止めときます)
印象に残った中で1つ挙げるとすると、日本にいたときとメジャーにきてからの投球術の違いを語った箇所になる。その部分を一部引用して、この本の紹介を終わりにしたい。
これまでのイメージで言えば、きっと僕は“フォークボールピッチャー”ということになるのだと思います。もちろんフォークボールは今でも僕にとって大切な球種であることに変わりはありません。でも今はさらにプラスアルファの存在としてツーシームもあれば、カーブもあります。(本書126頁より)
目の前に流れる大河に身を任せて、今日も岩隈はその中で適応すべく、微細なモデルチェンジを図っている。
目下、好投が続いているメジャー2年目の岩隈。今後もどのような新しいマウンド姿を、ピッチングスタイルを見せてくれるのか?引き続き、当ブログは追いかけていきたいと思っている。
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■目次
まえがき 感情に左右されない自分をつくる
第1章 心を安定させ、何事にも動じない
20・・・「自信」こそが人を成長させ、成長することで、はじめて「挑戦」できる
23・・・「自分ではコントロールできないこと」を考え込んでもしょうがない
28・・・自分の「経験」こそが、唯一の決断材料になる
33・・・不安は放っておくから大きくなる
36・・・最悪から立ち直るためには、「ひとつずつ」を意識する
39・・・「明日から逃げることはできないのだから、未来の不安にジタバタしない
43・・・背番号を追いかけてはいけない。自分が背番号の「格」をつくる
46・・・「準備の人」になれば、心がぶれることはない
51・・・ポーカーフェイスでいることが、集中と安心をもたらす
54・・・「自信」とは、自分と向き合うこと。「過信」とは、相手ありきで考えること
56・・・原因を考えれば、おのずと自分と向き合える
59・・・「実力以上のものを出す必要はない」と思えば緊張はなくなる
64・・・調子の「いい、悪い」に関係なく、常に究極の理想を目指す
第2章 固定観念を捨て、変化を受け入れる
70・・・環境が変われば「やりにくくなる」のは当然
73・・・不便を、不便と思わなければ、ひとつ新たな発見ができる
76・・・とまどいを好奇心に変え、相手ではなく「自分」を変える
79・・・武器となる道具をあらため、最善の準備をする
82・・・役割が変われば、臆病になるのはしょうがない
86・・・自分に必要な体は、いつもの日常だけが知っている
90・・・次のステップに進むための、“たまたま”と思う心と大胆さ
93・・・“自主性”を重んじる環境に、やりがいを見出す
96・・・「慣れるしかない」と開き直れば、やるべきことが見えてくる
100・・・“野球小僧”の感覚を思い出して、物事に挑んでみる
104・・・頭であれこれ考えるより、自分の体を“察知する力”を磨く
第3章 信頼と自信をつかみとるための心がまえ
108・・・迷いがなくなったとき、人は一気に成長する
112・・・本当の信頼は、結果でしか勝ち取れない
115・・・手本になる教材は、誰の近くにも存在する
118・・・自分が信頼することで、平常心が保たれる
121・・・目の前のことに集中していても、いい結果が出るとは限らない
124・・・「心の余裕」が新しい武器を生む
127・・・悪いときは悪いなりに、そのときの“いいもの”を見つける
130・・・最初は誰とでも、信頼関係はゼロ
第4章 観察し、考え、感じることで、不安は消える
136・・・とにかく観察して、正解を見つける
139・・・闘いの場を客観的に見ることで、自分の生きる道が浮かびあがる
143・・・短所は「悪いところ」ではない。「少しだけ足りないところ」
146・・・自分にしかわからない、自分の「感覚」を大事にする
150・・・「マイナス思考」は裏返せばいい
153・・・「先入観」は「なんとなくのイメージ」でとどめておく
156・・・スケジュールは大雑把に。「目安」であって「目標」ではない
160・・・「相性のいい、悪い」ではなく、たかが「確率」の問題
162・・・客観的な情報と、「感じる」情報を合わせる
第5章 使命感を持つことが、人を成長させる
166・・・「理に適っている」選手こそ超一流
169・・・ホンモノに触れることで、一歩先を創造することができる
173・・・ときに感動は、敵味方を魅了する
178・・・「誰かのために」という使命感を大切にする
181・・・無垢な頑張りが、勇気をくれる
185・・・大きな成功を求めない。小さな責任を果たすことからはじめる
188・・・「紳士でいること」が人生の価値をつくる
191・・・あえて「二兎を追うこと」で、自分の適性を見極めればいい
195・・・未知なる刺激がモチベーションをくすぐる
あとがき 失敗は人生の“先生”のようなもの
◎◎◎最近読んだ本の読書感想文◎◎◎
・【書評】 広尾晃 著『プロ野球なんでもランキング──「記録」と「数字」で野球を読み解く』(イーストプレス知的発見!BOOKS)
・【書評】『スポーツアルバムNo.42 釜田佳直』(ベースボール・マガジン社)
・【書評】工藤公康 著『野球のプレーに、「偶然」はない ~テレビ中継・球場での観戦を楽しむ29の視点~』(KANZEN)
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